覚えておきたい「正当防衛」の要件。反撃したら殺人未遂になることも。

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覚えておきたい「正当防衛」の要件。反撃したら殺人未遂になることも。

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千葉県で、「息子を金槌で攻撃したところ殺人未遂の疑いで逮捕された」という事件がありました。

 

この点だけ読むと殺人未遂もやむなし!と感じるかもしれません。
しかし、実はこの方、息子に灯油をかけられた上で火をつけられそうになったので「反撃」のために金槌での攻撃に及んだようなのです。

 

正当防衛要件。反撃で殺人未遂?

 

火をつけようとした息子は殺人未遂で逮捕されていますが、父親まで殺人未遂で逮捕されたことについては違和感を覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

 

父親の正当防衛じゃないのか!?

 

おっしゃるとおり、父親の正当防衛が問題となるケースです。
ただ、実は正当防衛が成立する条件って結構厳しいのです。

 

「反撃→正当防衛だからセーフ」的にお考えの方は要注意。
逆に自分が逮捕されかねません。

 

というわけで今回は、正当防衛となるためにはどんな要件が必要なのか、父親側の気持ちになって考えてみましょう。

 

正当防衛について定めているのは刑法36条。
これによると、「@急迫A不正のB侵害に対して、C自己又は他人の権利を防衛するため、Dやむを得ずにした行為は、罰しない」と書いてあります(@〜Dは私が追記)。

 

 

特に問題となる点1 「防衛の意思」が必要

 

正当防衛による反撃は、身を守ろうとする目的によるものでないといけません。

 

じゃあ最初に、殴られたので怒って反撃した場合はどうでしょう。
最高裁は、「逆上して反撃したからといってただちに防衛の意思を欠くものではない」としています。
なので、ブチ切れて反撃したくらいなら身を守る目的ありとして正当防衛が成立する余地があります。

 

次に、「前々からいけ好かない奴だったのでチャンスがあったらメタメタにしてやろうと思っていたらところ、何と本当に相手が先に攻撃してきたのでこれ幸いと反撃した」場合はどうでしょう。
最高裁は「防衛の名を借りて積極的に攻撃を加えた行為」については防衛の意思がなく正当防衛にならないと言っています。
身を守ろうとする気持ちが0ではダメなのです。

 

最後に、100%攻撃意思だけではなく、身を守ろうとする気持ちも半分くらいあったらどうでしょう。
最高裁は、両方の気持ちがあったなら防衛の意思もあったといえるから、正当防衛が成立する余地があるとしています。

 

というわけで、100%攻撃の意図があったら正当防衛は成立しません。
ただ、そうでなければ割合広く正当防衛になりそうだということが分かります。

 

 

特に問題となる点2 「やむを得ずにした」

 

誤解を恐れず言うと「やり過ぎたらダメ」ということです。
ただ、この点については色々と細かい話があります。

 

第1に「防御に徹する」ような場合を考えてみましょう。

 

素手で殴られそうになったのでナイフを出して「近づいたら切るぞ!」と『脅迫』したような場合。
素手にナイフってやり過ぎだし、脅迫したらいかんだろという意見もあるわけですが、最高裁では防御に終始しているので「やむを得ずにした」と判断されたようです。
この場合は正当防衛が成立。

 

第2は、こっちから反撃(攻撃)するような場合。

 

この場合は相手よりも強い武器を使ってはいけません。
やむを得なくないからです。
素手で殴られたのでナイフで反撃して殺してしまったら普通は正当防衛とはいえません(この場合は過剰防衛となります)

 

 

じゃあ今回ってどうなの

 

父親が以前から息子を殺そうと考えていて「へへ…息子が襲ってきたらこの金槌でやっつけてやるんだ……」なんて周りの人に話していたりしたら「防衛の意思」がないという話になりそうです。

 

ただ、「確かにそういうことを話したかもしれないが、今回は自分の身を守るために必死だったんだ」とか言えば、防衛の意思については「あり」と判断できそうです。

 

一方、「やむを得ずにした」という点についてはちょっと検討が必要です。

 

息子の武器(灯油+ライター)に対し、金槌という攻撃力が強そうな武器で反撃しているからです。
しかも灯油って沸点が高くてライターでは燃えにくいという話もあるっぽいので、父親の武器のほうがかなり強くなってしまいます。

 

この点については「やむを得ない!」、「やむを得なくない!!」と色々な考え方があるでしょう。

 

ただ、最終的に私は金槌で反撃するくらいやむをえないんじゃないかと感じました。
燃やされたらヤバイし。
灯油とか一瞬で分からないし。

 

というわけで、今回はちょっとやり過ぎた感はあるけど、正当防衛となってもいいんじゃないかというのが私の意見。

 

 

あれ?じゃあ何で父親って逮捕されたの??

 

これは逮捕してきちんと調べようということです。

 

正当防衛かどうかを最終的に判断するのは裁判官です。

 

もちろん「間違いなく正当防衛だろう」というケースなら捜査の段階で不起訴となるわけですが、正当防衛の要件(条件)が揃っているか微妙だったり、相手が死んでしまっていたりすると、逮捕されたり、「もう裁判所で判断してよ」となって起訴されることが多いのです。

 

 

結局いざというときはどうしたらいいのか

 

とにかく「逃げる」がベストです。

 

仮に反撃するとしても自分が逃走するために行うべきです。
上で色々書きましたが、要は「正当防衛と(警察や検察に)認めさせるのは結構めんどい」のです。

 

もちろん悪いのは最初に攻撃してきた奴なわけですが、それに反撃してこっちまで犯人みたいなことになったらたまったものではありません。

 

色々な事件を見ていると、ピンチの時に現場に留まったことでどんどん状況が悪くなり、取り返しの付かないことに巻き込まれたというケースが多いのです。

 

一定のラインを超えたら一目散に逃げることを躊躇してはいけません。
昔の漫画にも書いてあったじゃないですか、「逃げるんだよォォォーーーーーッ」と。

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